この家族はみんな嘘つきだ
INTRODUCTION
イントロダクション
日本で暮らすミャンマー人家族を描いたデビュー作『僕の帰る場所』(2017)が高く評価され、ベトナム人技能実習生を題材にした『海辺の彼女たち』(2020)ではPFF第3回大島渚賞や新藤兼人賞を受賞し、映画界の注目を集めた藤元明緒監督による待望の長編第3作目『LOST LAND/ロストランド』。世界三大映画祭の一つである第82回ベネチア国際映画祭にてワールドプレミア上映されると1500席の会場が満員。上映終了後には大勢の観客によるスタンディングオベーションが巻き起こり、会場の Sala Darsena は熱気に包まれた。 日本・フランス・マレーシア・ドイツ国際共同製作のもと全編海外ロケで撮影された本作は、容赦のない現実と幻想的な表現が入り混じる世界観の中、子どもの視点から難民たちが辿る過酷な密航の旅路を描く。主演をつとめたシャフィとソミーラの姉弟をはじめ、総勢200名を超えるロヒンギャたちが出演する長編映画は世界初であり、演技未経験ながら故郷を追われた当事者である彼らの声と眼差しは、映画の世界にリアルな強度を与えている。
映画に登場するのは、東南アジアの国ミャンマー出身の大半がイスラム教徒である少数民族のロヒンギャ。国籍の剥奪や大規模な虐殺など、長い歴史の中で迫害を受け続けてきた多くのロヒンギャたちは故郷を離れ、隣国バングラデシュに避難し、難民キャンプで生活している。しかし、正式に難民として受け入れられることはなく、新たな住処を求めて国境を越える危険な密航を余儀なくされる人々が今も後を絶たない。
STAFF
スタッフ
脚本・監督・編集
藤元明緒
1988年、大阪府生まれ。ビジュアルアーツ専門学校大阪で映画制作を学ぶ。在日ミャンマー人家族を描く初長編『僕の帰る場所』(2018年)が第30回東京国際映画祭アジアの未来部門 作品賞&国際交流基金アジアセンター特別賞を受賞。2021年、ベトナム人技能実習生を描く長編第二作『海辺の彼女たち(日本ベトナム国際共同製作)』を公開。同作品はPFF第3回「大島渚賞」、2021年度「新藤兼人賞」金賞、第13回TAMA映画賞最優秀新進監督賞、第31回日本映画批評家大賞・新人監督賞などを受賞。主にミャンマーなどアジアを舞台に合作映画を制作し続けている。
DIRECTOR'S STATEMENT
十数年間、私は東南アジアのミャンマーで映像制作の仕事を通じて関わってきました。その中で、ロヒンギャの人々が受けてきた迫害の話を幾度となく耳にしてきました。これほどまでに残酷な現実が存在するのかと、信じられない思いでした。しかし、ミャンマーではロヒンギャの話題を口にすること自体がタブーとされる風潮があり、私自身、仕事を失うことへの恐れから、声を上げることができませんでした。自分の立場を守るために、身近で起きている異常な出来事を見て見ぬふりをしていたのです。
その罪悪感こそが、『LOST LAND/ロストランド』制作の原点となりました。映画作家として、この現実に目を背けたままでいることは不自然だと感じ、そして映画づくりを通して彼らともっと関わりたいと思いました。
物語を構想する中で、彼らが故郷を追われ、安住の地を求めて歩み続けるその道のりをドラマとして再現したいと考えました。自然の脅威や越境ビジネスにおける搾取など、さまざまな困難に直面しながらも、生きる道を探し続ける彼らの姿を通じて、人間の尊厳と希望を見つめたいと思いました。彼らの旅を描くということは、国籍や市民権を持たず、地球上どこにいても不安定な環境での生活を強いられ、常に居場所を求め続けるロヒンギャ全体を象徴的に表すことでもあります。
また本作は、いわゆる「邦画」という枠を超え、日本、マレーシア、そしてヨーロッパ諸国との国際的な協働関係で製作されました。歴史的にミャンマーと深い関わりを持つ日本、多くのロヒンギャが暮らすマレーシア、そして移民・難民問題が身近にあるヨーロッパ。それぞれの地域の視点が交錯する“ボーダレス”な映画づくりを目指しました。
『LOST LAND/ロストランド』は、ロヒンギャたちが歩む長く過酷な旅路を、子どもの視点から描いた作品です。難民キャンプという「遠い場所」から、私たちの日常空間へと彼らの存在が“やって来る”──そのようなコンセプトのもとで物語を書きました。遠い問題、遠い人々だと感じられがちなロヒンギャという存在が、この映画を通じて友情を育み、共に生きていく“隣人”として感じられることを願っています。


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